臍からキノコが生えた日には

例えば人間、川に落ちればカエルの子。

「理想的な生活。」

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「とうとう、最新型の冷蔵庫を手に入れたぞ。」

 

 

男の念願叶って、手に入れた冷蔵庫だ。

 

 

男は、別に冷蔵庫に執着していた訳ではない、

連日SNSに動画広告が流れていて、

それを見る度に、何とも便利そうだ。

と、男は常々思っていた。

 

 

この最新型の冷蔵庫は、

庫内の食材を判別して、

その食材で作れる料理を教えてくれる

とても便利な機能がついている。

レシピ通りに作れば、誰でも簡単に料理できる。

 

 

他に、自分の食事の好みを入力しておけば、

その日の気分でどんな料理が食べたいかも

分析して、食べたい料理のレシピを

ピタリと教えてくれるし。

ウェアラブル端末やスマートウォッチとも連動して

いるので、気候や体調に合わせたレシピも教えてくれる。

 

 

一見、外食にする手もあるのだが、

「お昼にあれを食べたから、夜は、これを食べよう。

いや待てよ。これを食べるには、帰りの電車で

隣の駅で降りてから、少し歩かないとお店がない。

コンビニだとどうしても同じものを食べてしまう。」

なんて、いちいち悩んでしまうよりは、

はるかに便利だ。

 

 

それに、たまにあっと驚くようなレシピを

教えてくれることがある。

それは、食材が極端に少なかったり、多すぎたり

と、いった時だ。

自分では、考えも及ばなかった料理パターンを

教えてくれる。

それも楽しくて、男はいろいろな食材を買っては、

冷蔵庫に入れた。

 

 

冷蔵庫の購入から数週間後、

「新しい機能が増えました。」と

メーカーから連絡があった。

 

 

その新しい機能は、自分の理想の体型を入力しておくと、

食べるだけで、その理想体型になれるレシピを

教えてくれる機能らしい。

 

 

新しい機能を入れるには、お金を払う必要があるが、

年齢相応、最近お腹が出てきた男には、素晴らしい機能だと

思い購入し、その新しい機能を使ってみた。

 

 

すると、次の日から、

どこからか食材が届くようになった。

 

 

男は、不思議に思ったが、

これも冷蔵庫の新しい冷蔵庫の機能なのだろうと

思い、あまり気にとめていなかった。

支払いは、クレジットカードと連動している為、

食材の代金は、自動的に支払われる。

 

 

食材を買いに行く手間が省けるし、

料金もスーパーで買うよりもいくらか安い。

一人暮らしには、便利だった。

 

 

半年もたたないうちに、

その新しい機能の効果は現れた。

冷蔵庫が教えてくれるレシピ通りに作って

食べているだけなのだが、お腹が凹み、

体調もすこぶる良い。

 

 

会社の健康診断でも、いつもE判定が目についていたが、

つい最近の結果は、すべてA判定だ。

 

 

上司や同僚から、

「最近、なんか若返ったな。いい顔してる。」

なんて、言われてしまった。

 

 

あの冷蔵庫のおかげだ。

 

 

そういえば、両親や親戚も揃って、

皆、あの最新型冷蔵庫を買ったと、

従兄弟から聞いていた。

 

 

「健康になることは、いいことだ。」

 

 

その従兄弟が、結婚をすることになった。

 

 

男は、しばらくぶりに、

故郷へと帰った。

しばらく両親とも会っていなかったのだが、

従兄弟が故郷で結婚式を挙げる

ということなので、出席する為、帰ることにした。

 

 

仕事の都合で、スケジュールが合わなく、

実家へは寄らず、式場にそのまま行くことにした。

少し遅れはするが構わないだろう。

 

 

何年も会っていなかった両親や親戚、

皆、歳もとって昔とは随分と変わっているだろうか。

正直、多分誰が誰だかははっきりとはわからない

かもしれない。

そこは、両親にたずねればいいだろう。

 

 

予想通り、遅れて式場に到着する。

故郷では、一番の豪華なホテルだ。

一生に一度のことだ。

従兄弟も奮発したのだろう。

男の田舎では、そういったちょっと見栄を

はるような風習がある。

 

 

受付を済ませ、案内された席に急いで向かう。

 

 

「いや、久しぶり。ちょっと遅くなってしまった。」

 

 

そう言って、席に座ろうとした男の声に、周りの視線が集中する。

 

 

それを見て、

男は、ギョッとした。

どうも予想が的中したのだ。

 

 

似た顔、似た体型。

今朝、男が鏡で見た自分とそっくりな人間が

この式場にたくさんいるのだ。

 

 

ただでさえ、親戚というだけで、

顔が似ているのに、体型まで同じだと

誰が誰やらか、わからない。

 

 

男は、この現実にめまいを覚えた。

 

 

健康的で、色艶のいい、たくさんの同じ人間。

 

 

「あの、最新型冷蔵庫。」

 

 

男は、少し前にテレビで見た

”大量飼育の食肉用鶏” を思い出した。

 

 

おしまい