臍からキノコが生えた日には

例えば人間、川に落ちればカエルの子。

「電車に忘れられた手紙。」

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ちょうど定刻に白い車体の電車がホームに入ってくる。

 久しぶりの外出だ。

桜も葉の緑が増え始め、だんだんと暖かい日が

増え始めた。

 

 

ドアが開く。

楽しそうに降りてきた親子を

赤い目の端で捉えつつ、電車に乗る。

 

 

通勤時間もだいぶ経った時間帯だからか、

人はまばらだ。

ちょうど、ドア近くの端の席が空いているので、

座る。

少し前までは、健康を考えて座る事をやめていたが、

座っていても、姿勢を正して座っていれば、

それ程、気にすることはないというような事を

テレビだか、ラジオだかで声のよく通るコメンテーターが

話していたので、最近は座ることにしている。

 

 

なるほど、確かに姿勢を正していれば、

腹や背中の筋肉が使われているのがわかる。

いや、そうしないと、正しい姿勢は取れない。

 

 

いくつかの駅に、着き、人が降り、乗ってくる。

隣の席も何人か人が、変わっているみたいだ。

 

 

前の席の人々も、変わっているみたいだが、

一番最後に見た時は、8人がけの席のうち、

5人が手元の携帯を熱心ににらんでいた。

 

 

ドアの上の液晶画面の中の人が、何か語らいかけている。

 

 

・・・

 

 

眠っていた。

 

 

起きると、電車は折り返しの駅に着いていた。

目的の駅だ。

 

 

降りようと、荷物を手に取り、席を立つ。

 

 

前の席に、何かあるようだ。

手紙?

 

 

車両には、皆降りてしまったようで、誰もいない。

 

 

このままにしようかとも、思ったが、

何か、重要なものかもしれない。

改札で、落し物として渡せば、落とした人にも

すぐに届くだろう。

 

 

手紙を手に取り、電車を降りる。

 

 

不意に、電話が鳴る。

これがいけなかった。

 

 

電話に対応する為に、手紙をカバンに入れた。

その手紙が

ついさっき、その日から三日後の今、

バンの中から出てきた。

 

 

もう、手遅れか。

封筒には、裏にも表にも何も書かれていない。

封はのり付けされている。

捨ててしまおうか。

 

 

どちらにしろ、開けてみないことには、

判断できない。

 

封を切る。

 

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お久しぶりです。

何年ぶりでしょうか。

 

 

その後いかがお過ごしでしょうか?

 

 

あの時の約束を果たそうと、

御宅へお伺いしたいと思い、

今、家を出発しました。

ちょうど三日後に到着する予定です。

 

 

そう、多分今頃だと思います。

私は、歩くのが遅いので。

 

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コトッ。

ペタリ。

 

玄関のドアを叩く音がした。